
「パンと愛と夢」
晴れた日曜日に一人暮らしの人がすること。前日の食器の片付け。一週間分の洗濯。そして掃除。あっという間に昼になり、軽くごはんを食べたあとはぽかぽかにふくらんだ布団を片付ける。いつもだったらそこで寝てしまい、気がつくと夜なのだけど、今日は散歩に出ることにした。 現像に出しておいた写真を受け取ってから、近所の喫茶店へ。そこは10年以上続いている老舗で、木作りの扉をひらくと薄暗い白壁の店内に淡いオレンジ色の照明が広がっている。テーブル席が6つほどと、小さいカウンターあるだけ。マスターとバイトの女の子一人の、最近少なくなったほんとうの「喫茶店」。扉の向こうの表通りには東京の下町の風景がひろがっているのだけど、この店の中は別世界。どこかしらヨーロッパの小さな町のカフェに迷い込んだよう。 キリマンジャロを頼んで、かばんの中から田丸公美子さんの「パーネ・アモーレ」を取り出す。3年前の2001年に出た本だ。2001年がどんな年だったか、あなたは思い出せますか?実はこの年は「イタリア年」とされ、数々のイタリア紹介のイベントが行われた年でした。 午前中に本棚を掃除していたら久しぶりにこの本が読みたくなって持ってきたんです。 田丸さんはイタリア語通訳として長年一線で活躍されてきた方で、彼女がこれまでの仕事で経験して来た数々の現場や、それにまつわるエピソードが収められたのがこの本。でも堅苦しくなく、ことば遊びやいかにもイタリア!なお話ばかりで、やっぱりくすりと笑ってしまう本なのです。その冒頭と、本の帯にこんなことばがあります。 パーネ、アモーレ、ファンタジア ―「パンと愛と夢」があれば生きていけるイタリア人。 リーゾ、ラヴォーロ、フィロソフィア ―「米と仕事と哲学」で生きている日本人。 これはこのエッセイ集を貫いている、視点でもあります。 これはあまりにもステレオタイプな見方かもしれません。田丸さんもこの本のなかで、両国ともにこうした傾向が最近では変わりつつあるとおっしゃっています。 でも日本人の変わり方、ちょっとひどいかも。かつては「米と仕事と哲学」だったかもしれない日本人。最近は米もなく、仕事から見放され、武士道や禅といった哲学は外国人から逆輸入。かといって愛や夢を求めるでもなく、求めるのはより多くの消費のためのお金。 言い過ぎ?何様のつもりだ、と思いますか?確かに私はまだ何もしていないし、何も結果といえるようなものを残していません。ただ、ちょっと悲しいんです、最近。ほんの3年前、この本を囲んでこの喫茶店で夢や愛を話し合った友人たちが、最近たまに話しても出てくる話が資産運用、貯蓄、子供の教育、パートナーや会社への不満だけになってしまっているのが。 子供を育てること、家族の生活を支えることは一人身の私には想像できないぐらい大変なことだろうし、この景気の状況では会社にかつてのような信頼をよせることも確かにできません。でも、まだ何も持っていなかった昔のほうが、ひとりひとりが人間らしく輝いていたような気がします。真剣に仕事に夢を追いかけて、真剣に愛を語って、将来へ想像を膨らましていたあのころのほうが。 キリマンジャロ、ちょっと苦く感じました。 コメント(0)| Track back(0) | 2004-02-08 21:49:53 |
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