幸せになるためのイタリア語講座

大学時代、九段下にあるイタリア文化会館のイタリア語教室に通っていたことがある。家から遠いので夜の講座を避け、午後は友達と会うことが多かったので自然と午前中の講座ばかりとった。
午前中の講座は、上品な年配の女の人ばかり。若くても30代半ば。男性がたまにいても、定年後に趣味で始めたという人だった。
そんななかにひとりだけ、私は場違いの雰囲気だった。ぼろぼろにあなの開いたジーンズに、ぴったりとした原色のTシャツの私。きれいに着飾った奥様がたは眉をしかめる。話題も流行のレストランや演劇の話。そんな奥様方のなかに一人、もうこれ以上はつける場所がない、というぐらい宝石を身にまとっている人がいた。それも毎週違うものをかならずつけてくる。最初のころその人に誘われて、授業の後に奥様方のお食事会に行ったりしたのだけど、あまりにも世界が違いすぎた。2度ほど参加してからは、大学で用事があるといっては断るようになった。もし夜の授業を取っていたら、おなじくらいの年の友達ができただろうな。ちょっと残念。
そんなことを思い出しながら、さっき銀座のシネスイッチで「幸せになるためのイタリア語講座」を見てきた。HPでストーリーをちょっとだけ読んだら、ほとんどの舞台はデンマークとなっていて、正直観るかどうか迷った。最近見たい映画がたっぷりあるから。「ロード・オブ・ザ・リング」はもちろん、「ラストサムライ」もまだ見ていない。「ジョゼ」でほんのりしたいし、「ラブ・アクチュアリー」でウキウキしたくもある。
けっきょくこの映画に決めたのは、この映画が銀座でしかやっていなかったから。銀座に休日出かけるなんて、久しぶり。ショップをのぞいてはひやかして、歩きつかれたところで喫茶店に入ってたら、昼からいたのに観たのは最終の回になってしまった。
最初は正直、失敗したかも、と思った。出てくる人がみんな、すごく疲れて毎日にうんざりした表情だったから。ちょっと前の私とおなじような、毎日をやり過ごすだけの、顔。
でもそんな人たちがイタリア語講座という場所で次第につながっていき、毎日が少しずつありきたりでなくなっていく。そのきっかけは、恋。「イタリア語講座」はそのほんの一場面にしか過ぎなかった。30歳を越えた男女が、不器用だけど少しずつ少しずつ近づいていく。そして次第に、何事もあきらめていて、臆病だった人たちの泳ぐような瞳が、落ち着いて、やさしい、愛情のこもったものになっていく。そのゴールが、ヴェネツィアへの旅行だった。上司に注意されてもけして切ろうととしなかった髪を、彼女のために切った男。不器用でなにひとつまともにできない彼女の美声に気がついたとき、やさしくその才能を褒め称える男。イタリア人の彼女に、伝わらないと分かってもデンマーク語で必死にプロポーズする男…。
…と書いていて気がついた。だめな男ばっかりだった…。でもね、そんな男たちが最後にはとびきりのいい男たちになっていた。そしてその男たちの優しいまなざしを受けて、この映画の2時間中最高に幸せな微笑みを返す女たち!
映画館を出たあと、ほんのり、じんわり、優しい気持ちになれました。
コメント(0)| Track back(0) | 2004-02-15 23:00:06
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